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「正直に話します。前の会社であなたを見たことがあります。あなたの人となりに興味がありました。でも、その時はそれきりでした。親の跡を継ぐために転職して、研修を終えたばかりの頃、リストの中にあなたの名前を見つけて自分から手を挙げました。自分なりに頑張りました。あなたの為ならと思うようになりました。いつもありがとう、というあなたの手書きのメモを見たときに、この仕事にして良かったと心の底から思えました。俺にとってあなたは初めから特別だったんです。俺ほど単純な奴はいませんよ」
テーブルに乗り出して、吉野の持っていたマグカップを取り、彼の手を取った。
「四六時中、君と一緒にいたい」
「相変わらず軽いな。誰も彼も、あなたのように簡単には言えないんですよ」
「君が教えてくれたんじゃないか」
「子供になら幾らだって言えます」
「初めにキスしてと言ってきたのは君の方だろ」
「忘れましたよ、もうそんなこと。あなたが子供のように甘えてきたからじゃないですか。俺は未だにこの距離感だって辛いんですよ」
彼の顔が赤くなっていることにはとっくに気付いていた。
「……いつから僕を」
「分かりません。そうです、ずっと前から好きです、あなたのことが。男同士で難しいことは分かっていたから、身体だけでもと思っていた」
視線をずらして吉野は言って、それからはぼんやりと玲を眺め見ていた。
埒が明かないので、いつも玲が座る椅子に移ってから、吉野にだけ伝わるぐらいの小声で言った。
「早く君に触れたい。いつもどれだけ我慢してると思ってるんだ」
「玲君が寝てから」
「どこで」
「……俺はもう、同じベッドでも構わない。いい加減、嫉妬し過ぎて気が狂いそうだ」
彼の言葉に絶句した。体が熱くなる。
こんな感情があるなんて、
今まで知らなかった。
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