再び、春

3/3

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 家に帰って書類棚を漁っていると玲が寄ってきた。  要らない書類の整理のついでもある。探し物は息子に探させることにした。  玲が探し出した吉野の名刺を確認して驚いた。  いつもエプロン姿でいる彼には不似合いな肩書に、電車の車内広告でよく見る人材派遣会社の会社名。  なるほど、これでは言うことを聞かせられないわけだ。 「益々、欲しい」 「え? 何が言った? お父さん」 「何でもない。今日は吉野が昨日作ってくれた照り焼きチキンと野菜スープを温め直して食べようか」 「僕がサラダを作るよ。レタスを千切るんだ。それから、きゅうりを切るよ」 「よく出来た息子だな。愛してるよ」 「お父さん、それは簡単に言っちゃいけないんだって、吉野が言ってたよ。ハグもね。お父さんは言い過ぎでし過ぎなんだって」 「嘘だろ」  愛を表現することは、本当に難しい。  ―――――  唐突に瑠美から電話があった。いつになく物憂げな声だったので嫌な予感がした。 「あの子を返して貰おうと思って」  元妻の言葉に咄嗟の反応が出来なかった。 「離婚するの。子供が流れて」 「子供が流れたから離婚?」 「私、男運がないのよ」 「振り回される子供の身になれ」 「あなたがそれを言うの? あなたに誰かを幸せにすることなんか絶対に無理よ」  瑠美は断言する。  ただ、唖然とした。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加