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家に帰って書類棚を漁っていると玲が寄ってきた。
要らない書類の整理のついでもある。探し物は息子に探させることにした。
玲が探し出した吉野の名刺を確認して驚いた。
いつもエプロン姿でいる彼には不似合いな肩書に、電車の車内広告でよく見る人材派遣会社の会社名。
なるほど、これでは言うことを聞かせられないわけだ。
「益々、欲しい」
「え? 何が言った? お父さん」
「何でもない。今日は吉野が昨日作ってくれた照り焼きチキンと野菜スープを温め直して食べようか」
「僕がサラダを作るよ。レタスを千切るんだ。それから、きゅうりを切るよ」
「よく出来た息子だな。愛してるよ」
「お父さん、それは簡単に言っちゃいけないんだって、吉野が言ってたよ。ハグもね。お父さんは言い過ぎでし過ぎなんだって」
「嘘だろ」
愛を表現することは、本当に難しい。
―――――
唐突に瑠美から電話があった。いつになく物憂げな声だったので嫌な予感がした。
「あの子を返して貰おうと思って」
元妻の言葉に咄嗟の反応が出来なかった。
「離婚するの。子供が流れて」
「子供が流れたから離婚?」
「私、男運がないのよ」
「振り回される子供の身になれ」
「あなたがそれを言うの? あなたに誰かを幸せにすることなんか絶対に無理よ」
瑠美は断言する。
ただ、唖然とした。
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