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愛の行方
「いつになったら君は僕のものになるんだ」
「え?」
吉野から包丁を奪ってシンクに投げる。振り向きざまの身体を後ろから抱き留める。
「危なっ……、何てことするんですか。……ちょっと、離し」
「昼も駄目、夜も無理。一体いつならいいんだ」
「駄目だ、今はっ」
たじろぐ彼を追いつめる。ダイニングのテーブルに押し倒した。
玲が帰るまで、未だ時間はある。
「……時計を見る余裕はあるのに」
実際、理性が戻ったのはほんの一瞬だった。
「酷いですね」と沈んだ声で吉野は言って、部屋を出て行った。
次の約束の日に彼は来なかった。
―――――
その日は久しぶりの快晴だった。
厭味なほどのドライブ日和にゲンナリした。
気を抜くと溜息が止まらなくなるほど気は重かった。だが、助手席の玲は歌など歌って楽しそうだ。これから瑠美と会えるからか。
「お父さん、吉野と喧嘩してるんだろ」
「え?」
「昨日はうちに来る日だったのに吉野がいて、おばさんたちと話してた」
相変わらずこのヤンチャ息子は真っ直ぐ家に帰ってきていないようだ。
「喧嘩してるんじゃなくて。お父さんも自分のことは自分でやろうかと思ってね」
「出来てないよね」
「……うん」
駐車場に車を入れて、玲にはここで待つように言った。
しばらくして瑠美がやって来た。車の中で朗らかに笑う息子を見て大変満足そうに破顔した。
予定通り玲は瑠美に連れて行かれた。
「はあ……」
一人残され、ハンドルに突っ伏すと、大きな溜息が出た。
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