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終わったと弁護士から連絡があった。玲を送り出してから十分経っていなかった。
「お父さんの家がいい」と玲が断言したらしい。
「お父さんと吉野の家に帰る」
玲がヨシノ、と口にしたことから、瑠美はそれが子供まで手懐ける女だと勘違いしたらしかった。
それですっかり機嫌を損ねたようで、部屋に入った時、瑠美は既にいなかった。息子の前で相当怒って、弁護士に嗜められたらしい。全ての男が自分に傅かないと気が済まないのか。らしいな、と思って笑ってしまったら、顔馴染みの弁護士も笑っていた。
「帰ろう、お父さん。今日こそ吉野は来るかな」
子供はいつも親の様子を伺っている。気付くし、気を遣う。
そういうもの、ということを忘れていた。
―――――
「お父さんっ、連れて来たよっ」
遠くから呼ばれて部屋から出ると、廊下の向こうから玲と吉野が現れた。玲に腕を引っ張られた吉野は困ったような顔をしていた。
吉野は玲が引いた椅子に座るものの、それから全く顔を上げようとしなかった。
コーヒーサーバーを動かす。沈黙の中で機械音が響く。玲が立ち上げたゲームの音がそれに代わる。
注いだマグカップを持って、その一つを彼の前に置いた。
彼の正面の椅子に座って、頭を下げる。
「この間はごめん」
「別に怒ってません。この間、あなたが少しおかしかったから、しばらく離れていただけで」
「ああ……」
空気読みの猛者がここにもいた。
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