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「こんな広い家に一人で住むなんて贅沢ですね」
「妻に浮気されて離婚したんだ。一生一人で住むつもりで買った」
こんなつまらない話も、彼は神妙な顔で聞いてくれる。
こういうところが実に都合良かった。
「僕も悪かった。家で彼女の機嫌を取る余裕はなかった。妻はまるで僕の鏡だったよ」
「奥さんは今いくつ?」
「別れた時は三十だったかな。あれから三年だから今は」
「あなたは今いくつ?」
「三十七」
「まだまだこれからですよ」
「どうかな」
「俺は二十五なんだけど。あなたを見てると歳は取りたくないと思いますね。苦労が絶えなそうだから」
黙って聞いていたかと思えば、手厳しい。そんなところも気に入っている。
「元妻はブランド品が好きでね。家計は崩壊してたな。僕を見てごらんよ。この顔、ブランド?」
「笑えませんよ。随分とご自身を卑下しますね」
「彼女は高嶺の花だったから」
「あなたのどこがそんなに悪かったんでしょうね。少し自信がなくて、少し人より悲壮感が漂って見えるぐらい別に」
「はは」
虚しくなるから、話を変える。
「君は若いのにどうしてこの仕事を」
「職業差別ですよ。あなたみたいな人がいるからですよ」
「凄くいいよね、君。君を専属にするには幾らかかるの?」
「こう見えて高いんです」
「だろうね」
「あなたの笑い方……、初めからそうなんですか?」
「………」
彼の前では気を遣わずにいられて、本当に良い。
―――――
「再婚するの。子供が出来るの」
元妻、瑠美からの三年ぶりの電話だった。
彼女の淡々とした話し方は変わらなかった。
「それで、あなたに頼みたいことがあるの」
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