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別れた男に振り撒く愛想など無いと言わんばかりにスンとした顔をした元妻から譲り受けた息子、玲は当然だが最後に見た時よりも一回り大きくなっていた。
あんなに朝から晩まで喧しかった息子がしょんぼりしているのを見ると、親の業の深さを感じざるを得ない。
どうやら瑠美は開き直って、我が道を行くことにしたらしい。
あんなに子供は渡さないと豪語していたのにこんなにあっさり手放すとは思っていなかった。が、彼女らしいと言えば彼女らしい。
推し黙る玲を部屋に通した。
解せぬといった顔をする子供を懐柔するなんて、これ以上の苦難があるのか。
「今日から君はここで僕と一緒に暮らすんだよ」
「ママは」
「お母さんとは暮らせない」
玲はえぇんと泣いた。相変わらず煩いな、と思った。
久しぶりに会ったので最早他人だった。耳を塞ぎたいと思ったところに、吉野が現れた。鍵を持たせているから勝手に入って来る。それにしてもこのタイミングで。
「あなたの言い方が悪いんですよ」
吉野は泣きじゃくる玲の前で身を屈めた。
「おいで」
玲はあっという間に彼に抱き上げられた。
「これからはパパと暮らすんだよ。大丈夫。不安にならないで。きっと君を愛で満たしてくれる。君を愛しているよ」
驚いた。
そんな簡単な愛があって良いのか?
玲は泣き止まなかったが、吉野の服を掴んで彼の胸に顔を埋めていた。
ずるいな、と思った。
―――――
そうだ。我慢をするのは止めたんだった。
あの時の息子が羨ましくなって、吉野に聞いてみた。
「ハグして欲しいんだけど、別に払えば出来る?」
吉野の呆れ顔は最高に滑稽だった。
「そういう仕事じゃないんだけど」
「この間は息子にしてたじゃないか」
「あれはサービスです。子供用」
「僕にサービスはないのか」
「いい大人でしょ。困った人だな」
吉野は暫く顎に手をやって考えていた。
「……そうですね、キスしてくれたらいいですよ」
「え?」
信じられない提案に耳を疑った。得しかないじゃないか。
「出来ます?」
「勿論」
キスをした後に抱き締めてくれるはずだった、彼が真顔になって言った。
「この間、あなたのシャツに付いた口紅を取るのは大変でした」
この後、謝り倒した。
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