うつろい

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うつろい

   結局、玲が泣いていたのは吉野の腕から下されるまでだった。  ファーストコンタクトは最悪だった。  それなのに。  子供の適応能力は見習うべきだ。  玲は今日もスプリングベッドの上で飛び跳ねている。  会う前、瑠美に話を聞いた即日に手配した。最初の日、玲は寝室に入るなり、セミダブルベッド二台を繋げたことで大きく見えるベッドに雄叫びを上げて喜んでいた。  今では毎日ベッドの上で、保育園の出来事などとともに堰を切ったように捲し立ててくる。 「ママはお父さんのことを全然教えてくれなかった。だから僕はお父さんのことを全然知らない。誕生日はいつ? 恋人はいる? 毎日、楽しい?」  大概は質問責めだ。  微笑ましいとしか言いようがなかった。  来月小学生になる息子は知らぬ間に成長していた。  誰に似たのか、単純明快に物を語る子だった。想像していたより子供との関係に煩わしさはなかった。  そう思ったことをつれづれなるまま、仕事中の吉野に話しかけていたら、彼は迷惑そうに振り返り、首を傾げて変な顔をした。 「当たり前でしょうが。あなただって子供みたいなものですよ」
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