うつろい

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「ママは遊園地なんか連れて行ってくれなかった」 「そうなんだ」 「サッカーも一緒にしてくれなかった」 「そうだろうね。お母さんは忙しかったんだよ。君のために一生懸命働いていたんだ」  元妻は出会った時から別れのその時まで気高く美しい人だった。  彼女を賛美していると、まるで自分がいいもののように思えた。  自分の浮気を棚に上げてひたすら攻撃してきた彼女のおかげで女性に対する理想が無くなった。  今は感謝しかない。  玲を産んでくれた。  食事中も玲は良く喋った。 「お父さん」と何度も連呼する。  これで媚を売っているつもりはないらしい。  さて、今は何もかも上手くいっている。  吉野あっての生活だった。今も玲の横でニコニコしている。  自分よりもハウスキーパーに懐く子供を見て、複雑にならざる得ない。  この夏は仕事を減らして玲を優先した。旅行にも行った。それには玲が吉野を連れて行きたがったので説得に時間を要した。  子供に感情が持っていかれる。  そればかりでない。  大人の事情も加味されて心が追いつかない。  去り際の吉野を後ろから抱き締めて尋いてみた。 「どうしたら君を独り占め出来る?」 「出来ません。俺はここに仕事で来ているので。もう行きます」 「つれない。次の手を考えなくちゃな」  抱き締めさせてくれこそするが、それ以上前には進めない。最近の彼は触れる前から睨んでくる。  いっそのこと振り払ってくれればいい。
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