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吉野が来る時間に合わせて諸々の予定を組んだり、真夏に適当にしてきた仕事のツケが見事に降りかかってきた。
「しばらく出張に行くので来なくていい」
そう言うと、吉野は吃驚していた。
「そこまで驚く?」
「玲君は」
「そのことか。実家に預ける」
「俺のところで面倒見ましょうか」
「君も忙しいだろ、大丈夫だよ」
「俺のところに来れば、学校も普段通り通えますよ」
「え? ここから君の家は近いのか?」
「近いですよ。歩いて行けます」
「知らなかった。言ってくれればもっと遠慮なく頼んだのに」
「預かりますよ」
「有難う。けれど家族のことだから、こちらで何とかする。君は本当に優しいな」
つい突き放した物言いになってしまったが、「そうですか」と吉野は普通に頷いた。
彼がいないと成り立たない息子との関係は脆くもある。
最近は泣いている赤の他人の子供を見ても何とも思わない。何があれほどまで喧しく感じたのか、よく覚えていない。
その日の夜、ベッドに就いた玲と話をした。
「吉野さんが僕がいない間に君といたいと言ってくれたんだけど断ったからさ」
「分かった。僕はおじいちゃんのところへ行けばいいんだね」
「ごめんね」
「吉野とお父さんは本当に仲が良いね」
「ああ、うん?」
子供にも分かるほどに感情が溢れていたようだ。
「そうだな、吉野さんがいないと今の僕は生きていけない」
「優しいから? 甘いから?」
「僕に甘いかどうかは分からない」
どうかなと呟いて考えている内に、玲は布団に潜ってしまった。
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