うつろい

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 徒歩圏内にある会社から急いで帰宅した。  扉を開けると、掃除機を持った吉野が立っていた。 「久しぶり、吉野さん」 「え?」  吉野はまた、吃驚していた。  その顔が見たかった。  出張から帰って来た後も最近は在宅をしていなかったから、二ヶ月ぶりだった。  片付けの最中だった彼にまとわりつきながら話をした。 「もう、帰る?」 「ええ」  向かい合っての少しの沈黙の後、 「玲君はよくご親戚の方と一緒に事務所へ来てくれます」 「君のところなら安心だ。優しい人が多そうだ。君を筆頭に」 「俺は優しくなんかありませんよ」  乾いた笑いの後で吉野が言った。 「正直言って、ずるいなと思ってます、あの子が。あなたと一緒に同じ家に暮らして」 「何言ってるんだ。愛してるよ、君のことも」 「そんな言葉を軽々しく使うのは」  正面から抱き寄せた吉野が躊躇いがちに背中に手を回してくる。 「僕が君をそんな風に捻くれさせたのかと思うと凄く嬉しい」 「やめてください。離れがたくなるから」 「君を僕のものにしたい。でも今は時間がない。僕はまた行かなくちゃいけない、君は帰らなくちゃいけない」 「……キスだけなら出来るだろ、早く」  急かされて直ぐにした。  細い腰を引き寄せて、彼への欲望を一切隠さずに。  長いキスの後に、吉野の顔がリンゴのように赤くなっていることに気付いた。  冬の間に、彼の体温が高いことを知る。
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