再び、春

1/3

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

再び、春

「君を買いたい」 「冗談は程々にして下さい。怒りますよ」  困った客と見做されて、その対応はかなり食い気味だった。吉野の困惑顔が見たくて言ったのだが相手にされなかった。半分は本気だった。 「そんな顔しないで下さい。一体いくつですか、あなた」  彼が伸ばした手首を引っ張る。 「じゃあ、今日はいつまでいられる?」 「玲君のお迎えまで」  彼の肩に顔を埋める。これが許される今が嬉しい。 「仕事、終わった?」 「はい、一通り」  彼を担ぎ上げる。縋りついてくる彼を強く抱き締める。  このままベッドまで連れていくつもりだ。  彼の甘さはやはり想像通りだった。かなり癖になっていた。  寒い冬には特に。    ―――――  春になって迎えが要らなくなった玲は、学童から勝手に帰って来るようになった。ちゃんと行っているのか行っていないのか分からない、  聞いていると、吉野の会社のあるビルに立ち寄ったり、祖父母の家でオヤツをねだったり、学童の代替のような習い事の合間にも、時に友達を連れて自由にしているようだった。  乳幼児の頃は病気のオンパレードだと聞いていたが、今の玲は風邪一つ引かない。  手のかからない子だ。    こういうのが一番危ない。  
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加