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再び、春
「君を買いたい」
「冗談は程々にして下さい。怒りますよ」
困った客と見做されて、その対応はかなり食い気味だった。吉野の困惑顔が見たくて言ったのだが相手にされなかった。半分は本気だった。
「そんな顔しないで下さい。一体いくつですか、あなた」
彼が伸ばした手首を引っ張る。
「じゃあ、今日はいつまでいられる?」
「玲君のお迎えまで」
彼の肩に顔を埋める。これが許される今が嬉しい。
「仕事、終わった?」
「はい、一通り」
彼を担ぎ上げる。縋りついてくる彼を強く抱き締める。
このままベッドまで連れていくつもりだ。
彼の甘さはやはり想像通りだった。かなり癖になっていた。
寒い冬には特に。
―――――
春になって迎えが要らなくなった玲は、学童から勝手に帰って来るようになった。ちゃんと行っているのか行っていないのか分からない、
聞いていると、吉野の会社のあるビルに立ち寄ったり、祖父母の家でオヤツをねだったり、学童の代替のような習い事の合間にも、時に友達を連れて自由にしているようだった。
乳幼児の頃は病気のオンパレードだと聞いていたが、今の玲は風邪一つ引かない。
手のかからない子だ。
こういうのが一番危ない。
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