再び、春

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「シングルファザーになったんだってな」  こんなことが揶揄いの対象になるとは思っていなかった。  社内会議後の立ち話が望んでいなかった方向に流れた。 「器用にやってると思ったら、やっぱりダメだったか。立花さんは元気なのか」 「別れたんだって言ってるだろうが」 「再婚しろよ」 「何故」 「結婚すれば少なくとも確実に問題が一つ減る」 「いや。逆だ。増える」  彼の傍らにいた女性が上目遣いをしてきたので目を逸らした。 「今は子育てで手一杯だ」  と言いつつ、実際には特別なことなど何一つしていない。  今日も玲の方が先に帰っているだろう。  子供は勝手に育つ。  しかし、さすがに節度と礼儀は持つべきだった。  放任主義をこんな時だけ反省して、吉野の会社へ菓子折りを持って行った。 「いつも申し訳ありません」 「構いませんよ、可愛いお客様だもの」  穏やかな女性に出迎えられた。 「吉野さんは」 「常務は今、渋谷に出ていて」 「常務」 「あ、うちじゃなくて本社の」 「本社の」 「え?」 「え?」  若干噛み合わない会話がその後も続いた。  理解した頃には事務所に人が増えていた。  今日、吉野の立場を知った。  結局、今日の玲はそこに立ち寄らなかったようで、実家にいたのを拾って帰った。
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