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「今から帰ってもまた濡れるだけでしょ」
見え透いた誘いだと思ったけれど、彼はわたしの提案に感謝の意を述べて、部屋の隅にちいさく座っている。
わたしが貸したタオルが所在なげに彼の髪から落ちる水滴を受け止めている。
「インドか。ガンジス川のほとりで火葬されると、輪廻転生から抜け出せると信じられてるんだよね」
手持ち無沙汰なのか、テーブルの上に投げ出された旅行雑誌にちらりと目をやると、彼は会話というほどでもなく呟いた。そのまま雑誌を読み始める。
見え透いていると思ったけれど、部屋に誘った意図を理解していたのは、わたしだけだったのだろう。
だからもう100回くらいは上がらなければいいと願ったのに、雨が上がってきてしまったことについて、どう触れたらよいのかわからない。
END
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