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王子はそう言ってピッタリと私の体に重ねていた体を離して、また私の手を引いて急足で歩き始めた。
私はほっとする間もなく、王子について行った。そして、王子は一つのドアの前までくると、周囲を素早く見渡してノックしたのだ。
「どうぞ」
穏やかな声がして、私は王子に手を引かれたまま、室内に身を入れた。
目の前には、どこかで見たことがある男性がいた。黒づくめの法律家らしい衣装を来て、髭をはやしていた。カツラを被っていた。たった今、裁判所から戻ってきたばかりなのかもしれない。
「ダニエル、久しぶりだ」
「これは王子!お久しぶりです。そちらは例のフィアンセですか?」
青白い顔をしてヒョロヒョロのもやしのような男性がにこやかな笑顔で私とスティーブン王子を出迎えてくれた。
「そうだ。こちらはフランソワーズ。私の最愛の人で、三ヶ月後には妻になる」
王子の言葉に私は赤面して身につまされた。嘘でも「私の最愛の人」と紹介されるのは、心に刺さって何かがおかしく感じる。幸せだ。
「それはそれは初めまして。このような所まで来ていただきまして、お礼申し上げます」
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