死と希望 フランソワーズSide

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 衝撃のあまりに私は体が震えた。  そして、私は状況を素早く理解した。今よりずっと若かりし頃、ジットウィンド枢機卿は王妃を冤罪で処刑した。  私が何をすべきか?  私はすぐに理解した。生前の父が言っていたのだ。女王を嵌めた証拠の手紙が存在すると。ジットウィンド枢機卿を破滅させれるほどの威力のある証拠があると。  父がその証拠を使わなかったのは、家族を守るためだろう。私と母を守るために父は法廷弁護士の仕事を諦めた。  私は素早く身を翻した。 「大丈夫よ、お花をありがとう」ともう一度振り返って男の子に見える小さな女の子に伝えた。可憐な黄色い花とピンクの花が私の手元にある。ガーベラだ。    花言葉は「希望」だ。  私の夫は浮気をしているはずだ。私は知っている。次の王妃は、処刑された元王妃の侍女になる。今の私は、私の夫の死期も夫の弱点も夫の性癖も知っている。全部知っている事は強みだ。  私は、これから夫に処刑される王妃の身だ。破滅は確定しているが、それでも数十年後に覆せる証拠の存在が、私の心を奮い立たせた。夫を嵌める必要はない。彼は病で死ぬ。次から次に妻を変えたとて、彼は幸せではなかったはずだ。ならばもう、知らない。  私は愛しいスティーブン王子のことを思った。また会えるだろうのだろうか。希望を捨てなければ、恋焦がれたあの方に再会できるかもしれない。
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