パン屋 フランソワーズSide

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 ゾフィー令嬢は走って逃げた。 「待って!」  私は追った。彼女の金髪のカールした髪の毛が揺れていきなり振り返って彼女は私の前に両手を広げて立ち塞がった。私は彼女にぶつかりそうになって、慌てて立ち止まった。 「あなたは王子に何をしたの?」 「解毒したのよ」 「二人ともこっちだ」  そこにフェリックス・ブルックが現れて、私たち二人に手招きした。私は覚悟を決めた。命をさっき失った。もう、王子の妻となる座も失っても良い。もう、何もかも失っても良い。  ただ、ジットウィンド枢機卿の思うがままに操られて人生を踏み躙られるのだけは真っ平だ。ゾフィー令嬢には何が起きたのか、ちゃんと話す必要がある。彼女が私を疑う限り、私は命が危ないし、ゾフィー令嬢に勘違いされたままだと嫌だった。腹立たしいのだ。彼女が本気でスティーブン王子に恋をしているのは分かるし、私もずっと同じだったからだ。  私は確かに第一聖女よりは美しくないし、公爵令嬢でもないし、文字通り平民だ。何より、第一聖女に比べたら圧倒的に力が足りない。
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