パンと聖女の手当

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 私はほっとした。  ブルックは私に固執している。私をとことんいじめ抜いて私からお金を巻き上げ続けるつもりだ。  私はブルックが帰ったので、玄関の扉をしっかり閉めて鍵をかけた。これで生活できるためのお金は全部消えた。 「パンを焼くわ」    私は気持ちを奮い立たせるために、声に出して言った。スキルを使うから、普通の人より楽な工程だ。  カラス麦を粉にしたものと、すりつぶした豆を混ぜて私はパン粉にし始めた。自給自足をすれば、乗り越えられないものはない。  私はそう自分に言い聞かせた。  スキルを使って細かい粉にした甲斐があって、いつもより美味しくパンができるかもしれないと、少しワクワクし始めた。  私は自分を卑下し過ぎだ。多分。  第1聖女は素晴らしかった。でも、私は彼女と自分を必要以上に比べ過ぎている。他人と自分を比較し過ぎて良いことは一つもない。  畑仕事やパン作りは私を卑屈の沼から救ってくれる。しかし、それ以外の時間は、王子が恋してやまない第1聖女と自分を比べて自分の不甲斐なさを常に感じて、毎日がもがくようだった。  そんな比較は要らないし、惨めになるだけな比較は不健康だ。潔く違いを認めて、大したことではないと笑い飛ばせるような自分になりたいのに、うまくいかない。  ブルックが言った「パン屋を開け」という言葉は、私の劣等感を少し緩和した。私の頭の中に自分が焼いたパンが早朝から並ぶお店のイメージが広がった。  今の私にとっては幸せのイメージかもしれない。
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