霧が晴れる ゾフィーSide ※

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 ――あれ、一人でこんな所に来たのは初めてだわ。いつもは馬車で侍女と行動しているから。  街の人の話は、第二聖女フランソワーズと結婚を発表した王子のことばかりだった。その話をみんながしている。昨日の新報がコーヒーハウスにあって、私はそれを買って読んだ。涙が新聞に滲んだ。泣きながら、新聞に涙を落としながらコーヒーを飲んだ。いつスティーブン王子に抱かれてもいいように毎日毎日お手入れを怠らなかったのに、そんなのは無駄だったのだ。  コーヒーは苦くて大人の味がした。こんなに何不自由なく恵まれているのに18歳で今が最高に美しいという時に、好きな人には抱いてもらえないという仕打ちを受けると思わなかった。  泣いていたら、新聞のインクが手について、その手で涙を擦ったので、顔に汚れがついたらしい。隣の人たちがヒソヒソと私を見ているので、私は慌ててコーヒーハウスを後にした。  顔を刺繍のついた綺麗なハンカチでゴシゴシ拭った。そんなことをしながら、屋台で焼き菓子を買って食べながらフラフラと街を歩いた。
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