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コスモス、アネモネ、キキョウ。夏の終わりの結婚式は色鮮やかな花で彩られ、非常に華やかな式場だった。
この瞬間は私と王子だけの2人だけの世界のようだが、全く違う。司祭と私たち2人を見つめているのは、国王とその後ろに居並ぶ臣下と大勢の高位貴族たちだ。彼らは揃いも揃って豪勢な衣装で着飾っている。
彼らが私たちの挙動を固唾を飲んで見守る緊張感ときたら、たまらないものがある。それなのに、目の前の美しい王子は平気な様子だ。花嫁衣装を身につけた私は、彼らの煌びやかな衣装と熱気に、めまいが起きそうな圧迫感を覚えてふらっときた。
――この人が本当に私の夫になるなんて信じられない。
「誓います」
私も掠れた声ながら、やっとの思いでなんとか声を絞り出した。
王子は私の手に大きなダイヤが煌めく指輪をはめてくれた。ずしりと重くなった手に、これは現実世界の出来事だと私に実感させられる。
「僕らの間に愛が無くても君を大切にする。約束するよ」
王子は私を抱き締められるほどに接近して、私の耳元でささやいた。誰にも聞こえないような小さな声で。
私の胸がずきりと痛んだ。泣きたくなるような、切ない感情の沼に落ちるような、胸が痛みに貫かれるような。そんな感情が花嫁衣装の私を包む。
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