辺境伯ブルク家ご令嬢

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 間もなくパンが美味しく焼き上がるだろう。そうすると、すぐに近所の子供達がやってくるだろう。子供達にパンを無償で分けてあげるのも私のいつもの習慣だ。ここまでくると気分はすっかり上がってきていて、晴れ上がった空と同じくらいに私の気分はぐっと回復していた。  母のために大麦粥をお皿によそって、お茶を用意した。寝室の隅に置いた小さなテーブルに運んだ。あとでパンも一緒に食べてもらおう。根菜のスープも昨晩作ったのが残っているので、もう一度鍋を温めて、スープ皿によそって運んでおいた。  ――これでよしっと。  その時だ。  コンコンと玄関の扉が誰かに遠慮がちにノックされた。私は小窓からそっと外を覗き、玄関口に貴族令嬢がやってきているのに気づいた。ため息が出た。  嫌な客ではないが、断るべき依頼を持ち込む客だろうと思った。 「ああ、フランソワーズ、ちょっといいかしら?」  私が玄関を開けると、貴族令嬢の彼女は遠慮がちに私を見つめて言った。自宅まで彼女が押しかけてきたのは初めてだ。あちこちに広大な領地を所有するブルク家当主の娘である。18歳のゾフィー令嬢だ。  ブロンドの髪が美しくカールをしていて、天使のような愛らしい青い瞳を持つ令嬢だ。唇は小さく、全てにおいて小さく愛らしくまとまっていて、有名画家に描かせた彼女の絵は大評判になったと聞く。  実物も素晴らしい。  強大な力を持つ辺境伯のご令嬢がこんなところに押しかけてくるなんて、私にとっては良い話ではないはずだ。都に構えているあの豪華な別邸から馬車で訪ねてきたのだろうと私は思った。  何の用かしら?
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