辺境伯ブルク家ご令嬢

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「その……私が恋をしているのは、王位継承権第一位のスティーブン王子なの」  ……みんなスティーブン王子に恋焦がれているのね。  私の頭に崖の上で泣き崩れている彼の姿がよぎった。彼が第一聖女に心底惚れてしまっていて、今でも苦しんでいるのは私と彼の間だけの秘密だ。第一聖女は若くして彼の婚約者となりながら、彼をフッて、つい最近隣国の王妃となったお方だ。  残念だが、王子であらせられる彼の視界には第一聖女しか今も映らない。フラれて、第一聖女の幸せを願いつつ、彼女に心を奪われたままでもがき苦しんでいる彼の状況からすると、ゾフィー令嬢には全く勝ち目がないだろう。  いくら恋をしても無駄な相手なのが今のスティーブン王子だ。 「スティーブン王子様ですね」  私はうなずいた。王子の状況から、今の彼はやめておいた方が良いという言葉が出そうになったが、私は黙った。 「そうなの!私は家柄としても彼と釣り合うと思うの。でも、肝心の彼は私の方をさっぱり振り向いてくださらなくて……」  ゾフィー令嬢の最後の方の言葉は消えいるようだった。恋に悩む貴族令嬢が、最後に聖女の作る薬に頼りたくなる気持ちも分からなくはない。  でも、私の頭の中にあるのは、彼が地面に膝をついて泣き崩れている、泥が顔につきながらも美しい顔で大粒の涙をこぼして声を殺して泣き続けている姿だ。  ――あの方に媚薬を使うの?自分を振り向かない人を、無理やり自分のモノにするために?
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