辺境伯ブルク家ご令嬢

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「私は媚薬が作れないのです……本当にごめんなさい。私にはあまりスキルがないのです」  私は嫌悪感を隠して丁寧に断ろうとした。 「……お礼ならいくらでも払いますわっ!ほら……謝礼に新しい家と土地をご用意しますわ。それに第一聖女が隣国の王妃になった今は、あなたが第一聖女でしょう?」  ゾフィー令嬢は食い下がってきた。彼女も必死だ。気持ちはわからなくもない。でも、二番手は所詮二番手なのだ。一番手がいなくなったからと言って、一番手の聖女と同じスキルが発動できるようになるわけではない。彼女と私の間には決定的なスキルの差が存在した。地味で冴えない私に比べて、彼女は才能溢れるだけでなく、美しく輝くような、人々を幸せにできる女神のような容姿と心を持っていた。私は全面的に第一聖女に憧れていた。しかし、現実には彼女と私では雲泥の差がある。見た目の印象だけでなく、実力の面で。  私は頭を振った。断りの仕草だ。 「そんな……気休めの薬でもいいから作ってくださりませんか。王子がほんの少し私を振り返ってくださるだけでもいいのです。このままでは、私は死んでしまいたい」  ゾフィー令嬢は泣き出しながら私にすがった。床に崩れ落ちて泣いている。ピンクの丸い頬を涙がつたい、唇が震えている。青い瞳は私に助けを求めて、後から後から涙が溢れてきていた。  死んでしまいたいなんて、滅多に口にしてはならない言葉だ。  私は言霊を信じているので、すぐさま周囲を確認した。妙な影は認められないが、この美しく愛らしい令嬢を暗い影に引き摺り込みたいと願う悪い精霊はいるだろう。
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