契約婚 ※

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 私の心も痛かった。私の好きな人は別の人が好きで、傷ついて泣いている。心が寒い。  この感情は最悪の感情だ。私が落ちた沼は底なし沼で出口がない。私は大好きな人のそばにいて、彼が愛しているのは別の人だと告げられている。彼には私の感情は悟られてはならない。 「命に関わる毒でなくてよかったです。私のスキルはまだまだ足りず、完璧に解毒できずに大変申し訳ございません」  私は惨めな気持ちで平謝りした。 「楽になったのは事実だ。君は僕には好意がないだろう?君のそばにいると安心できる」  彼はぼそっと正直な気持ちを吐露した。私はその言葉に体が固まった。  彼はそのまま目を閉じた。私の肩によりかかったままで。  私の気持ちは心の奥深くにしまわなければならない。  窓の外は夏の終わりを告げていて、まもなく紅葉するであろう木々がまだ緑の葉のままで風に揺れていた。暑さは少なくなり、黄金色に染まる渓谷を見ることができるのはまもなくだ。  お昼になるというのに、考えて見れば朝から私は何も食べていなかった。空腹のはずなのに、王子が隣にいると胸がいっぱいだ。  幸せな第一聖女のことを想った。彼女は今頃大好きな人と一緒にいるだろう。私は後に残された彼女にぞっこんのまま苦しんでいる王子と、冴えない地味な聖女のままで、二人で並んで不幸せなままでいる。
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