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別邸には何度も来たことがあるが、王子の部屋に通されたのは初めてだ。別邸の薬草室にあるものは何でも使っても良いと言われて、私は別邸の台所を借りて解毒剤を作った。
「どういった成分の媚薬かわからないため、効くかどうかは分かりませぬが、解毒剤を調合してみました」
私は眠っている王子にそっと声をかけた。王子は目を開けて私をぼーっと見つめた。
私は褐色の肌に薔薇色の頬とほめてくださった第一聖女の言葉を胸に、務めて明るい笑顔で王子に解毒剤を入れたカップをすすめた。
「ありがとう」
王子は疑いもなくその解毒剤を飲んだ。王子自身が望まぬ貴族令嬢に惹かれてしまうのは私としても嫌なので、本気で解毒剤を調合してみた。効くことを心から願った。
「ちょっとこっちに来てくれるか」
王子は私に言った。私は逡巡した。王子のベッドに近づくのは、何だか違う気がしたからだ。
「お命には別状ございません。私はここでお話をお聞きします」
私は王子にそう言って動こうとしなかった。すると、王子はベッドから起き上がって私の方に歩いてきた。
「君がいなくて僕は辛い……」
王子は私を抱きしめてそうささやいて泣き出した。
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