妨害と決意 フランソワーズSide

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 今、目の前には秋の紅葉に色付いた渓谷と赤紫色のヒースの花が見える。ここで、「振り返ってみれば私たちの結婚式まではあっという間に進んだ」と言えたらどんなにいいだろう。  しかし、決してそんなことはなかった。私はありとあらゆる妨害を受けた。  地味で冴えない、貧しい家出身の二番手の聖女が国の世継ぎである王子と結婚することは、高位貴族令嬢たちの激しい反感を買ったのだ。  それは、死の恐怖も感じる妨害工作だった。だが、結果的には逆にこのことが私の決意を固くさせるのに十分な効果を発揮した。  私は王子との秘密の契約婚を命をかけてでもやり遂げようと決意したのだ。  結婚が発表された夜、私は火が燃える音と煙の匂いで目が覚めた。  ――煙臭い……?火?    私はハッとして起き上がった。小さな家中に煙が充満していて、キッチンではない方から火の手が上がっていた。 「火事だわっ!母さんっ!」  私はスキルを発動して大量の水を撒き散らして火を消そうとした。思わず窓ガラスに手元にあった本を投げつけた。ガラスが割れて、外の空気が一気に流れ込んだ。  ――母さんっ!母さんっ!  私は必死に母の寝室に走った。母の部屋も煙で充満していて、私はスキルを発動して窓ガラスを吹き飛ばし、母の体を浮遊させて外に飛ばした。  走って自分も窓から飛び降りた。こういう激しいアクションには慣れている。聖女は危険な目に合う人々や王子を守る必要があるからだ。母の体はゆらゆらと燃え盛る家の上に揺らいでいた。母の体の下を火の粉が飛び、激しい炎が背中を赤く照りつけている。 「母さんっ!母さんっ!」  私は必死で母に呼びかけた。慣れているはずなのに気が動転して、自分のスキルのコントロールがうまくできない。手がぶるぶる震えてしまって、母を思うように地面まで下ろせなかった。母の体は屋根より高い位置で揺らいだままだ。  ――どうしようっ!  焦る私は、母の名を叫ぶばかりだ。その時だ。  『ジュノ侯爵家のエリーゼ嬢に媚薬を盛られた』と言った王子の言葉が、私の頭に不意に蘇った。  ――この火事も誰かに仕組まれたの?  私は冷や水を浴びたように、一瞬で背筋が寒くなった。  怖いが、母を巻き込んでまで私を殺そうとしたのならばと怒りを覚えた。 「フランソワーズ!」
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