妨害と決意 フランソワーズSide

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 通りの向こうの暗闇の中から、フェリックス・ブルックが血相を変えて走ってきた。近所の人たちも大勢通りに外に飛び出して来た。 「落ち着けっ!母親をゆっくり下ろせっ!大丈夫だから落ちつくんだ!」  私に駆け寄ってきながら、ブルックは私に向かって真剣に叫んだ。  ふと気づけば、近所中の皆が井戸から水を汲んできてくれていた。皆、必死に燃える私の家に水をかけてくれていた。  ――みんな、ありがとう。でも、これは王子と結婚することを発表した私への報復かもしれない。  高位貴族令嬢の多くが王子と結婚したがっていたのは事実だ。  ――そのうちの誰かが放火を仕組んだとしたら?  自分で思いついたその考えに対して沸々と怒りが湧いてきて、焦っていた気持ちは冷静になった。  集中しよう。  私が冷静にスキルをコントロールできるようになると、それまで当てもなく空気中を漂っていた母の姿がゆらゆらと空から降りてきた。地上に降りてきた母を、大人の男性たちが何人かで協力して受け止めてくれた。 「母さんっ!」  必死で呼びかける私に、母はゆっくりとうなずいた。母の意識はしっかりしているようだった。    私は安堵のあまりに泣きたくなったが、歯を食いしばって消火のスキルを発動した。  ――お願いっ!雨も降って欲しい!  ――火よ、鎮まれっ!  スキルで天気も操りたかったが、そこまでの力は私にはなかった。自分が不甲斐なくて情けなかった。私は必死に家の火が静まるようにスキルを発動し続けた。近所の人たちも懸命に井戸から水を汲んで走ってきて、水をかけてくれた。  いつの間にか王の騎士団が現れた。町の人と一緒になって消火活動に当たってくれていた。王の騎士団を仕切っているのは、クリフトン伯爵の子息のロバートだ。彼は王子の幼馴染で親友だ。寝起きですっとんで来てくれたらしく、赤毛の髪には寝癖がついてくしゃくしゃだった。  私と顔見知りでもある彼は、火の粉が飛び交う中でも勇敢に消火活動にあたってくれた。 「お怪我はないですか?」  ロバート・クリフトン卿は私を気遣って聞いてくれた。私は無言でうなずき、スキルを発動し続けた。そういえば、昨日は彼と待ち合わせをしていたのに、私はすっぽかしてしまったことに今気づいた。 「昨日は待ち合わせの場所に行けず、申し訳ありませんでした」   謝ると、ロバート・クリフトン卿は私に「それは大丈夫です!」と遮るように答えて、水を組む騎士たちの元に走って行った。  フェリックス・ブルックは私という金蔓(かねづる)がなくなるのが困るのかも知れないが、彼も消火を率先して手伝ってくれた。
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