ロバート・クリフトン卿Side

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 ただ、スティーブン王子の苦しみも知っている私としては、こうでもしなければ状況が落ち着かないというのも分かっている。殿下はきっとほとぼりが覚めたら婚約を解消されるだろう。第一聖女との婚約解消の時のように、電撃的な婚約解消だろう。スティーブン王子が第二聖女を愛しているわけではないのは、私が一番よく知っているつもりだ。  黙って私を心配そうにチラチラ見ながら紅茶をようやく飲み始めた母に、私は呆れたように首を振って見せた。私はさりげなく席を立ち、クリフトン伯爵家の豪華な朝食の席を退いた。  間もなくクリフトン伯爵である父も朝食の席にやってくるだろうが、今は顔を合わせたくない。 「ドロシー、しばらく私は眠るから誰にも起こさないでと言ってくれるか。頼む」  私は昔からいる家政婦にお願いして、自分の寝室に入った。  深夜ともいうべき時間に第二聖女の家に仕掛けられた放火のため、消化活動のために駆けつけたのだ。  くたくただ。  私は第二聖女が助かって本当に良かったと安堵しながら、着替えるのもままならず、そのまま気を失うようにベッドで眠りに落ちた。  クリフトン伯爵家のふかふかのベッドに眠る私が次に叩き起こされるのは、治安判事が登場した時だ。  探偵気取りの地方の有力者が任命される名誉職は、超有力勢力であるブルク家が牛耳っていると言っても過言ではない。彼らは無給で地方行政や裁判を行ってくれる反面……小言はこのくらいにしておこう。  我がクリフトン伯爵家にも治安判事を務める縁戚がいる。これはご婦人方のお茶のタネになるような話題でありながら、私にとっても王子にとっても非常に深刻な災いとも言える事態に発展した。  私が密かに恋をしてしまっているフランソワーズ嬢にとっても。褐色の美しい髪を持ち、輝くようなエメラルドの瞳でエクボを見せて笑う、私の心を捉えて離さないフランソワーズ嬢は、クリフトン伯爵家の豪華なベッドで眠る私の夢の中では、ススだらけになっても愛らしかった。
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