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王子は私の手に大きなダイヤが煌めく指輪をはめてくれた。ずしりと重くなった手に、これは現実世界の出来事だと私に実感させられる。
「僕らの間に愛が無くても君を大切にする。約束するよ」
王子は私を抱き締められるほどに接近して、私の耳元でささやいた。誰にも聞こえないような小さな声で。
私の胸がずきりと痛んだ。泣きたくなるような、切ない感情の沼に落ちるような、胸が痛みに貫かれるような。そんな感情が花嫁衣装の私を包む。
その時、王子の温かい唇が私の唇をさっと奪った。
誓いのキスだ。
私の胸の震えは大好きな人にキスをされたから。
彼が私を愛していないと、またもはっきりと伝えてきたから。王子は私を愛してはいない。
――私では逆立ちしても無理なのだ……。彼に愛されることは無理なのだ……。私より年下の18歳の第一聖女ヴィラへの未練が断ち切れないスティーブン王子が、気持ちを周囲から隠すために選んだただの隠れミノ……。
大好きな人と結婚してキスをされたのに、私は彼を愛していないふりを彼にはしなければならない。
そして、皆の前では当然のごとく私たちは愛し合っている前提で振る舞わなければならない。
彼は「契約に縛られた愛していない相手と結婚すること」を私が承諾したと信じていた。
彼は私が自分を愛していることを知らない。彼にはそのことは決して知られてはならない。
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