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あの日はあのままおしゃべりして終わった。
空は話を聞くのが上手い。
ついつい、私がたくさん話してしまうけれど
空はその方が楽しいと言ってくれる。
なんて優しいの。
同い年のはずなのにクラスの男子とは大違いだ。
ああ、好きすぎる。
5年前の雨上がりの季節に初めて会って、
そこから会う度にどんどん惹かれて、
もう抑えきれない。
分かっているのだ。
彼は幽霊で、
もう生きていなくて、
この先彼と過ごす未来がないことも。
分かっているけども。
うう。
「どうしたの。
可愛い顔が台無しですよ。美夜さん」
高校の机で頭を抱えながら唸っていると友達の柚菜が私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「あーちょっとやめてよー!」
ひどい、今日は降水確率60%くらいあるのに。
「あれ、今日雨降るんだっけか」
柚菜が私の様子をみて、呟く。
柚菜には私の特殊体質のことも、彼のことも話していた。
「恋してんね、今日も健気に」
私が髪の毛を必死に整えていると、柚菜が今度は優しく頭を撫でてくれる。
その手に少し泣きそうになる。
もう少しで彼が消えてしまう。
だってこの間だってあんなに透けて。
考えたくなくても、考えてしまう。
見えて、話せて、触れられても、彼はもういないのだ。
もう5年。
普通なら1年くらいでどんどん透けて消えてしまう人もいることを知っている。
彼は長すぎる程なんだ。
サーッと雨の音が聞こえて、慌ててスマホのお天気アプリを見る。
何個かお天気アプリを試して、一番的中率が高かったアプリだ。
「もう降ってきた」と柚菜が呟く声が聞こえる。
この雨はいつまで降るのだろう。
高校が終わるまで降ってくれるだろうか。
30分後には止む予定、の文字が見えて項垂れる。
今は登校したばっかり。
高校にはしっかり通うことを約束しているから、
彼に会いに行くことはできない。
私が幽霊が見えるのは、せいぜい雨が上がって1〜2時間だ。
その時間が終われば、彼から私は見えるけど私から彼は見えない。
私は、柚菜に抱きついてため息をつく。
柚菜はまた優しく、頭をなでてくれた。
30分後
お天気アプリの予想通り上がった雨を恨めしそうに見ながら、数学の授業を受ける。
最悪。
学校さえなければ会えたのに。
降った雨に光が反射してキラキラしている外が憎らしくて、ちょっと睨む。
しょうがない、今日このあと雨が降る可能性に賭けるしかない。
窓の外を眺めていた目を無理やり黒板に戻すと、雨が降っていた時は視えなかった人がいる。
幽霊だ、女の子の。
それも空と同じくらい透けてる。
その女の子は、クラスの男の子に近づくとその子に優しく触れて微笑んだ。
そのまま薄くなって、そして、
消えた。
消えたのだ。
空と同じくらい透けていた、女の子が消えた。
消えてしまった。
衝撃が走る。
空は?
空はまだ消えて居ないだろうか。
まだあの公園にいるだろうか。
嫌だ、嫌だ。
空が消えてしまうなんて嫌だ。
分かってはいた。
分かっていたけれども、空と同じぐらい透けていた女の子が消えたのだ。
それは、今まで頭で理解していたよりもずっと現実味が帯びて、もうあの公園に行っても空がいないかもしれないと思うと怖くなる。
今から公園に行こうか。
今なら走っていけばまだちょっと間に合うはずだ。
そう思って席を立とうとするけれど、
もし走っていって空がいなかったらどうしようと考えてしまって、うまく体が動かない。
涙が勝手に溢れてくる。
「すみませーん。
美夜、具合が悪いみたいなんで保健室連れていきます」
柚菜がそう言ってくれて、教室から連れ出してくれる。
廊下にそのまま出て、泣き崩れた。
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