雨上がりの時だけ、あなたに会える

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結局早退してしまった。 帰り道をとぼとぼ歩く。 今から行っても空は見えないのに足があの場所へと進んでしまう。 空がいないと、人気のない寂れた場所にしか見えない。 いつもは、あんなにキラキラ輝いて見えるのに。 「空」 そう呼びかける。 私には見えないけど、空がまだいるなら私の声は聞こえているだろう。 まだいるなら、とか言って そんなことを考えるのも嫌だ。 「空」 もう一度名前を呼ぶ。 返事は聞こえないままだ。 当たり前か。 「好きだよ」 とつぶやく。 「空が好きだよ、だから消えないで」 目から一粒涙がこぼれた。 さっきあんなに泣いたのにまだ溢れてくる。 そんな涙を隠すように雫がぽたっと手に落ちる。 雨だ。  次第に雨が強くなって、私を濡らしていく。 「好きなのに、生きててほしいのに」 雨に隠れるのをいいことに、もう抑えるのをやめた涙が次々と溢れてくる。 しばらくすると、降っていた雨がやみ始めた。 少し、降っただけだったみたいだ。 でも、止むのが少し怖い。 雨が止んだのに空がいなかったらどうしよう。 雨の音が止んだ。 体にあたっていた雨の感覚も消えてしまった。 空が本当にいるか怖くて目が開けられない。 「美夜、こんなに濡れて」 優しい手が頭に触れる。 良かった、まだ消えてなかった。 目を開けるとそこには前よりも少し薄くなった空がいた。 「美夜」 そう言って抱きしめてくれる。 空の体がどんどん透けていく。 「嫌だよ、 空が好きだよ、空」 どうにもならないことに、駄々をこねているのも分かっていた。 でも、でも。 「一緒に生きて」 私の言葉に、空が私を抱きしめる力が強くなる。 空が深く息を吐く。 そうして空は私と目を合わせた。 「俺も、美夜が好き 一緒に生きたいよ」 空の目にも涙が溢れて、 でも空は優しく笑っていて、 その涙が地面に落ちる前に、私は一人になっていた。
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