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そこで僕達の会社が介入して、そのメールを中継する仕事もやっているというわけである。その際、ウイルスが混じっていないかも徹底的にチェックしている。異なる惑星から送られたメールのせいでパソコンがウイルス感染した!なんてことになったらそれこそ惑星間のトラブルに発展しかねないからだ。
そう、実は僕たちの仕事は、間接的に太陽系の平和を守っているともいえるのである。この太陽系の中で戦争なんて起きないよう、それぞれの惑星がほどほどの距離を取りつつ友好な関係を築いていけるよう、日々努力を重ねているわけだ。
とはいえ、地球人たちに危機感がない、と思うのはまさにその通りなわけで。
――彼等もそろそろ、手足を一本ずつ増やすとか、頭をもう一個生やすとか……そういう風に進化していかないと。それとも、地球人って簡単に形態変化とかできないんだっけ?
五本の紫色の手で素早くキーを叩いていく。
そういえば地球にある火星大使館の人が、“地球人はそろそろ脳を増やす手術などしてみてはどうか”みたいな提案をしたら、アメリカの大統領にものすごく激怒されたことがあったのだとか。――まったく理解できない。大使は間違いなく、善意と心配で言ったのだろうに。
「地球は人気観光スポットだし……異星人もとっくにたくさん訪れてるのにさー。もうちょっと寛容な心を持って欲しいもんだね」
思わずそうぼやいた、その時だった。
「仕方ありませんわ。地球の方は、非常に臆病でございますから」
「!」
鈴が鳴るような声。はっとして、僕は業務カウンターの方を見た。見ればテーブルの前に一人の美しい女性が座っているではないか。
――わ、わあ!
宝石のような緑色の目が合計十三もある。ぬるぬるとした艶やかなオレンジの肌に、三つの頭皮から生えた黒い触手は綺麗にリボンで結ばれている。睫毛も長く、彼女が瞬きをするとキラキラと星が散るようだった。
間違いない。僕と同じ、オコロ星人の女性だ。確かに火星にはオコロ星人の移住者も非常に多いが。
「こ、こここ、こんにちは!僕、ドムって言いますう!お、お、お客さんでしょうか!?」
僕が慌ててカウンターに滑るように飛びつくと、女性はくすくすと笑った。その際、耳まで避けた大きな口が目に入る。歯が金色で鋭くて、あまりのかっこよさにくらくらしてしまった。年は二百五十歳くらい、だろうか。ドキドキしてしまうほど美しい人だった。
「そんなに緊張しないで、ボウヤ。ええ、今日は、届けたい荷物があって、手続きに来たのよ」
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