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彼女はよいしょ、と五本の腕で荷物をカウンターに乗せた。クール便だ。いつもなら面倒くさがるところだが、この素敵な女性のものだと思うとそれでもいいかと思ってしまう。男というのは、どこまでいっても美人に弱いイキモノなのである。
ただ。
「えっと、地球、ですか?」
届け先が、地球の日本と言う国になっていた。心配になって、僕は思わず確認してしまう。
「クール便ってことは、食べ物ですよね?地球の人に、オコロ星人の好物って口に合うもんなんでしょうか……」
「火星の、マーズオマールよ。実は、以前この星に一度だけ、地球の友人が来てくれたことがあってね。その時美味しい美味しいって食べてくれたものだから、彼女の誕生祝いに届けてあげたいのよ」
「あ、そうだったんですねえ」
地球人の体は非常に脆いので、まだまだ限られた地域しか宇宙旅行ができないと知っている。現状彼等が行くことができるのは、月と火星のみ。そのせいか、火星には時折地球人が乗った宇宙船が降り立つことがあるのだ。
きっとその時、女性と地球人の友人は友達になったのだろう。送り主は“ロゼ”と言う名前になっていた。多分、この人の名前なのだろう。
「わたくし達の方から地球に観光に行くことは珍しくないですけど、地球の方々が来られることは少ないですからね」
ロゼはくすくす笑いながら言った。
「そして、先ほども申しましたように、地球の皆さんはどうしても臆病な方が多いです。わたくしたちが地球人に擬態していなければ、すぐ怪物だの化け物だのと呼んで怯えてしまうものですから」
「僕達からすると、地球人の方がよっぽどオバケっぽいですけどねえ。だって手足が合計四本しかないんですよ?貧相じゃないですか」
「本当にね。……でも、わたくしの友となってくれた彼女……マナミさんはね。まだ小学生の子供だったけれどとても聡明で、わたくしの本当の姿を見ても恐れることなく近づいて、お話をしてくれたんですのよ」
あれで、わたくしは地球人の偏見を取り払うことができましたの、とロゼ。
「彼女の両親も、わたくしを怪物と呼ぶことなく、友として接してくださいました。……ただ、まだまだ地球には偏見が多いものですわ。わたくしがあまり何度も地球に行くと、他の皆様が怖がってしまうのはわかっています。擬態もそんな長時間持つわけではありませんしね。ですのでせめて、彼女が火星で美味しいと言ってくれたマーズオマールを届けて差し上げたいなと。今の時期は特に美味しいですから」
「優しいですねえ……」
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