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たっかん
高田伸二が入ってくる。中肉中背で、顔が四角くて、どこかの役人みたいな真面目そうなタイプだった。先生をやろうと教職課程に進んでいる。
「おう。元気だったかい」
「まあ、普通かな」
「そうかい」
「ところで、また、小説を再開するらしいですね」
「誰から聞いたいんだい」
「自分でブログ記事を書いていたじゃないですか。しかも、あなたのYouTubeチャンネル「タケノリラジオ」でも、高々と宣言されていた」
「そうだったな。へへへへ。」
「前回の小説中野には傷つきましたわ」
「え?何が」
「サークル活動初期の時に、女の子に手を出そうとして失敗して、「女の敵」と避けらるようになったって書いてましたよ」
「そんなこと書いたっけ」
「書いてありましたね」
「多分、そのエピソードは、つかみのために書いたんだよ。ほら、冒頭、何もないとつまんないじゃん」
「いきなり、あんなん書かれる俺の方がつまりませんよ」
「いや、そこは、犠牲になってくれよ。高田君。君がまず急先鋒になって笑いを取る。そして、渡部に繋げればいいんだよ。野球で言ったら、一番バッターですよ」
「じゃ、ワベさんは、なんなんですか」
「あいつは、四番だろ」
「ま、長距離打者ですよね。とにかくね。古傷が痛むんですよ。さとさんの小説を読んでいると」
「いや、俺の方が痛むんだよ。俺の人生、古傷だらけだからな」
「確かに」
「確かにじゃないんだよ!」
ところで、正夫はたっかんとは呼ばなかった。高田は、たっかんとは、達観であり、縁起が良いものだと、むしろ、呼ばせていたくらいであったが、正夫の中では、達観というよりも、スッキリという感じの性格なのかなあと思っていた。
これもあとで考えてわかったことなのであるが、高田伸二には、実は江戸っ子気質が濃厚に流れていたのだ。だから、色々なことが起こっても、スッキリサッパリしているのである。
その反面、正夫の方は物事をウジウジ考える癖があった。考えすぎて、もはや何を考えていたのかわからなくなる時がある。その結果、殆ど、考えていないのと同じようなことになる結果が多々あった。
この小説中野もそうであり、頭の中で何回も書き直されていて、もはや訳のわからない領域になってしまっている。
それはそうとして、二人は渡部の到着を待っていた。近況など、ダラダラと、どうでも良いことを話していたが、その詳細はカットしよう。
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