ザ・児童文化研究会 福田班長

1/1
前へ
/8ページ
次へ

ザ・児童文化研究会 福田班長

 というわけで、一向は、グダグダ喋るのをやめ、いや、喋りながらも、市村さんの住んでいるアパートに向かうのであった。 「やはり、いつかは、ザ・児童文化研究会という小説を完成させなきゃいけないかもな」 と正夫が呟いた。高田は、 「それは、膨大なものになるでしょうね。サトさんの代、サトさんの上の代、そして、俺や渡部さんの代、を描かなきゃいけなくなりますので、人数は何十人になりますよ」  と言った。 「なるねえ。本当に、壮大なものになるとは思うけど、やらなきゃいけない。いや、面倒だから、この小説の中で、説明しちゃおうかな」 「そっちの方が早いかもしれませんね。ダイジェストみたいな形で」 「そうだな。そうするか」 というわけで、正夫の歩きながらの回想が始まった。昔から、正夫はこういう、ながら回想が好きだったので、二人と会話しながらの回想になるだろう。  まず、ことの始まりは、出っ歯の福田さんという存在だった。彼がいなかったら、正夫は児童文化研究会なんかにいなかったに違いあるまい。ある意味で恩人なのであるが、彼は変な人だった。奔流の如く、話をするのであるが、饒舌過ぎて、言ってはいけないことを口走ったりするのである。 「僕がこの班をまとめようと、こんなに苦労しているのに、みんな、わかってくれないんだよ」 とか余計なことを言ってしまうのだ。それを聞いている同僚が激怒する。そして、また落ち込む。この繰り返しであった。    しかも、その当時、 「福田いい加減にしろ!」 という空気がサークル内に溢れていた。話がややこしくなるが、児童文化研究会というのは、三つのセクションに分かれていて、創作、人形劇、児童班と、それぞれ活動していたのだ。    その中の創作班に、この三人はいたのだ。渡部は一代下、高田は二代下、ということになる。で、創作班の班長である福田班長は、とても嫌われていた。  これも原因があるのであるが、どうも、福田さんの上の代が二つに分かれていて、福田さんの派閥があって、それに対抗してもう一つ、人形劇班、児童班の派閥と、分裂状態だったのだ。  だから、その勢力闘争の結果として、もともと仲が悪かったのであるが、福田さんには、人望がなかった。創作班内部でもブチブチ文句を言われていたのであった。本来なら、正夫が福田の鞄持ちにでもなって、創作班を盛り立てようということになるのだろうが、そんな気は毛頭なかった。  それよりも、市村さんという、これからアパートに向かう別の先輩と仲良くなって、彼の部下というか、親友みたいなものになってしまったのだ。孤立した福田は、のちの送別会で、変なギャグを見せる。 「あらまあ。奥さん。こんなところに、もやし炒めがありますわよ」 というと 「ムシャムシャ」  と食べたのだ。どうやら、これが芸みたいであった。  この時、その場にいた人たちは、沈黙に包まれた。誰一人として、拍手もしないし反応もしなかった。中には、怒り出している人もいたくらいである。  正夫たちは、ワンテンポ遅れて 「ワーイ」  と爆笑したのであるが、それは滑り芸ということであった。これほど、人望がないのも珍しいと思う。一発芸が、つまらないということもあるのだろうが、前世で何か悪いことでもしたのではなかろうか。 「あの福田さんの一発芸は凄かったよね」 と正夫が言うと、高田は覚えていなかったようであるが、渡部は覚えていて大爆笑した。 「ど、どうしたんだよ。渡部」 「いや。すみません。あの時の福田さんを思い出しちゃって、歯を剥き出しにして白目を剥いていたから」 「あの人すごかったよな。俺に劇の訓練だ、とか言って、屋上で、発声練習みたいなことしたんだけど、 『あのひはあ、とってもう、寒、かったあー』 って、間が独特な上に、出っ歯だから唾が飛ぶんだよ」 とモノマネをすると、渡部がさらに笑った。 「福田さんネタ好きだよな。渡部は」 さて、回想は続く。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加