ザ•児童文化研究会 市村拓海

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ザ•児童文化研究会 市村拓海

 もし、彼と出会わなかったら、正夫はこのサークルにはいなかったかもしれない。それまでに、いくつかのサークルに入ってはしばらくしては、雲隠れを繰り返していたが、正夫は、この人物に出会って、全然変わった青春を送ることになるのだった。  まず、何だか知らないが、市村氏のことが正夫は、おかしくておかしくてたまらなかったのだ。何がおかしかったのかはわからないが、高校時代にゲラゲラ笑いながら付き合っていたやりとりを思い出したのである。  その点、福田さんは、全く正夫の深いところに刺さらなかったのであるが、市村氏はバシッと刺さったのである。さて、どこが刺さったのか。彼は、髪の毛が綺麗にまとまった、少し小柄な、毛深い精悍な青年だった。そんな彼が放つ関西弁のイントネーションがとても面白かったのだ。  今でも、彼の話を聞くと吸い込まれてしまうようなところがあるが、何か喋りの中に独特の人を引き込む間のようなものがあるのだろう。あと、やけに懐かしい感じもした。どこかで会っているような記憶があった。ひょっとしたら前世で繋がりがあったのかもしれない。  で、そんな彼と話していると、彼がふざけて全ての言葉の後ろに、「嘘」と付け加えて、台無しにしてしまう。そのギャグに、正夫は大爆笑してしまうのだ。それはとても単純なものだった。 「あー、今日は寒いなあ。嘘!」 「もう。静かにしてくれよ。嘘!」 「おはようございます。嘘!」 「おう。サトさん元気か。嘘!」 「もう、キリがないな。嘘!」 「もう、こうやって嘘嘘、言うのやめようぜ。嘘!」 もう、正夫は狂ったように笑ったのであるが、今にして思うとそんな風に笑う正夫の方が異常だったのだとしか、言いようがなくなっている。  その他にもいろんなギャグをしてくれて、楽しかったが、市村さんは、もともとそれほど外向的なタイプではないらしい。むしろ、正夫がそんな彼の面白さを引っ張り出したのかもしれない。そして、ある程度、歳をとると、正夫はそんなに笑わなくなったので、それほど二人で会っても昔のようには盛り上がらなくはなっていたが、この当時は、2002年においてはバリバリに盛り上がっていた。
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