「婚約破棄されたので婚活します」「普通か」

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「婚約破棄されたので婚活します」「普通か」

 私、鳳凰麗華。令嬢をしております。  先日、婚約者と親しくなった女性に悪事をでっち上げられ、婚約破棄をされてしまいました。  というわけでありまして── 「婚約破棄されたので婚活します」 「いや普通か!」  お金持ちの集まる名門高校、白鳥坂高校に通う私は、友人である特待生の天野裕作に決意を表明いたしました。 「ちょっと、普通とはなんですの? 死活問題ですのよ」 「追放されたりとかそのまま他国で自由に生きて無双したりとかそのまま他国の王子に溺愛されたりとかないんか!」 「天野くん、ここは日本ですのよ」  天野くんは活字中毒であるため、このごろ悪役令嬢ものや婚約破棄もののライトノベルにも手を出し始めていらっしゃいます。 「裁判で勝ちましたので追放などされませんわ」 「普通かて!」  普通かしら? 「というわけで女子力を磨こうと思いますの」 「普通か!」  とっておきの本日のランチボックスを取り出します。 「女子力といえばお料理ですわよね」 「普通か!」  蓋を開けてお披露目の時間です。 「さて、ここでクイズですわ。このこの世の終わりのような私の手料理は一体なんでしょう?」 「ちょ、普通とちゃうーー!!」  特有の粘度を持つ漆黒の物体をお披露目します。 「いたって普通の肉じゃがですわ」 「献立の選択は普通か!」  蓋を閉めて、なかったことにします。 「というわけで婚活で好みの異性のタイプを挙げろと言われましたので『料理上手な人』にしましたわ」 「普通か!」  昼食に持参したもうひとつのランチボックスを開け、シェフ特性の肉じゃがを食べながら、話を継続します。 「お相手の条件をほどよく絞って決めることも大切だと聞きますわ。同世代の平均年収を超えてると嬉しいですわね」 「普通か! いや令嬢にしては欲ないな!?」  スマートフォンで婚活サイトを見せつけます。 「私は十七歳、つまり同世代の平均所得は……限りなくゼロに近いですわね。ひとつでもバイトしてれば余裕ですわね」 「改めて考えると女子高生が婚活サイト登録しとんのは普通とちゃうな!?」  人差し指と親指で輪を作りながら続けます。 「超えてさえいれば良いので多い分にはいっこうに構いませんわ!」 「普通か!」  そしてその他の条件の欄をタップして見せます。 「あとの条件は羅生門を暗唱できて円周率を百桁言えるお方にしておきましたわ」 「異性の好みが高校生らしいけど独特で普通とちゃうーー!!」  そのままサイトに登録している自身の写真を見せびらかします。 「さて、婚活は見た目で足切りされる恐ろしい世界。着飾ることも重要ですわ」 「普通か!」 「ファッション誌を読み漁りましたわ」 「普通か!」  ばっちりとナチュラルメイクをしてワンピースを着た写真です。清楚系を狙いました。 「どうですの? この爽やかなサマードレス」 「いや普通に可愛いなぁ!!」 「普通に照れますわ」  照れますわ。  カメラロールを開き、次の衣装の写真を見せびらかします。 「それから、やはり時代は働く女。私もアルバイトを始めましたわ」 「普通か! 普通か……? 普通に偉いな」  バイト先の制服の写真です。  照れますわ。  ついでに投資アプリを見せびらかします。 「ついでに投資も始めまして、ばっちり生涯年収ほどの成果は出てますわ」 「いや普通とちゃうーー!! 有能令嬢!! もう婚活いらんやんけ!!」  照れますわ。 「結婚の目的はお金だけじゃないのですわ。信頼できる生涯の相方が欲しいんですの」 「普通か!」 「まあこの婚活アプリを入れたのは遊びですけれど」 「普通にやめとき!」 「あら、天野くん、ヤキモチですの?」 「普通に危ないけどそれもある!!」 「…………え?」  照れますわ。 「……料理上手で、平均年収超えてて、羅生門暗記できて、円周率を百桁言えりゃええんやっけ」 *** 「と、いうのが私たちの馴れ初めですわ」  結婚披露宴で再現ビデオを見せびらかします。 「婚約破棄された私は密かに思いを寄せていた男の子とくっつきました」 「一周回って普通か!」  本日も天野くんとの夫婦漫才が絶好調です。 「普通とはなんですの? 幸せいっぱいですわ!」 「もうええわ! 君とはもうやっとられんわ!」 「婚約破棄ですの?」 「ちゃうわ! どうもありがとうございました!」
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