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混乱した麗奈の頭の中を、いろいろなものがめまぐるしく駆け巡った。突っ込みどころが多すぎて突っ込めない。まだ母はなにか喋っているようだが、頭に入って来なかった。
やがて、ある事実に思い当たる。
「――そしたらきっと、麗奈も……」
「ちょっと待った、受験は!? それにもうすぐ卒業なのに」
「萩山にも高校はあるわよ?」
「そうじゃなくて! こないだ願書出した志望校は……」
「あっちで受け直せばいいじゃない」
「…………」
あまりにもあっさりした母である。
どうやら子供たちの知らない間に、両親や祖母の間で話がまとまっていたらしい。
こうして、跡継ぎだか転勤だかよく訳の分からないまま、麗奈の中学卒業を目前にして転校が決まったのだ。
といっても出席日数は十分に足りていたから受験に支障は無く、正確には卒業式まで欠席扱いということになる。中学一年生の妹と小学一年生の弟も、終業式を迎えずに転校となった。
麗奈は今の中学に未練も何もなかったから割とすんなり受け入れたが、新しい学校にようやく馴染んでようやく友達が増えたばかりの二人は、しばらく嫌がって抵抗したものだ。
最終的に、「時々は友人に会いに帰ってくる」という約束の元、渋々転校を受け入れたのだった。
*****
祖母の家は、麗奈たち家族五人がひとつずつ部屋を使っても余るほど広い。里帰りのたびに各自使っている部屋があったから、荷物を広げなくとも必要なものは揃っていた。
麗奈は自分の荷物を運び入れると、昼間に祖母が干しておいてくれた布団をベッドに敷き、横になった。
父も母も、勝手だ。せめて長女にくらい、先に相談してくれてもいいのに。まあ昔から言い出したら周りが見えないのは解っていたことだが、そもそも跡継ぎだの何だの、麗奈には未だにさっぱり解らない。
ほんの数日前まで、ごくごく普通の中学生活を送っていたのだ。普通に受験して、普通に高校生になるのだと思っていた。父の転勤ならまだよくある話だが、跡継ぎとは。そもそも祖母の跡を継ぐならば父か母ではないのだろうか。考えるほどにわけが分からない。
色々と思考を巡らせていると、ドアを叩く音が聞こえた。続いてドアが開き、細い隙間から弟がそっと顔を覗かせる。
「お姉ちゃん……おばあちゃんが、ご飯もうできてるって」
声にいつもの覇気がない。さっき冷たくしすぎてしまっただろうか。
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