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(弟にあたっても仕方ないか)
別に、田舎暮らしが嫌なわけではないのだ。
普通ならもっと反抗したりするのだろうが、気紛れな母の我が儘に振り回されるのにはもう慣れてしまっていた。志望校にどうしても行きたい熱意はなかったし、通っていた中学校にも特に思い入れはない。突然のことに戸惑っただけで、正直なところ、「どうでもいい」というのが彼女の本音だった。まあだいだいなるようになる。
麗奈は身体を起こしてベッドから足を下ろした。八つも歳の離れた兄弟はやはり可愛い。麗奈の表情が柔らかいのを見て、弟がほっと肩から力を抜いたのがわかる。
「分かった、行くよ。ご飯何だろうね?」
「あのね、今日は肉じゃがとかぼちゃコロッケがあるよ。お姉ちゃんが好きだからって」
「おばあちゃんのかぼちゃコロッケ美味しいもんね。楽しみだね」
麗奈は弟の手を握って、共に居間へ向かった。
祖母は、娘夫婦と孫たちと共に暮らせるようになることを心底喜んでいるようであった。
麗奈が小学生のころは夏休みや冬休みをたっぷり使って萩山に滞在することも多かったが、麗奈が中学に上がって部活をするようになってからは休みが少なくなり、盆と正月のみ、それもほんの数日しか訪れることも無くなっていたため、この大きな屋敷に一人暮らしをしている祖母としてはやはり、口にはしなくとも寂しさを感じていたのかもしれない。
夕食後、自室で一人荷物を片付けていると、祖母が部屋を訪ねてきた。中学生の一人部屋にしては若干広すぎる洋室に、勉強机と木製のベッドを置いただけの質素な部屋。椅子の代わりにベッドに並んで腰掛け、久しぶりに祖母と二人きりで顔を合わせた。
「麗奈ちゃん、長旅で疲れているのにごめんなさい。少しだけお話したくて」
「うん、いいよ」
「跡継ぎの話なんだけど」
なんだか言いにくそうに、祖母が顔を曇らせる。静かに続きを待つと、祖母は深く溜め息を吐いて、申し訳なさそうな顔をした。
「なんだか急に知ったみたいで、ごめんなさいね。別に、今すぐどうこうしろってわけではなくて、いずれはこういう道もいいんじゃないかと思って、あくまで選択肢の一つとして話したつもりだったのだけど。たまたまお父さんがこちらに転勤になるってことだったから、貴方のお母さんがこれ幸いと引っ越しを決めてしまったみたいで」
「あー……なるほど」
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