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雪乃
「雪乃、会社に誰かいい人いないの?」
忙しなく母が言う。お友達の娘さん方は皆ご成婚済だそう。女同士のマウント合戦に負けてるらしい事は、ごめんなさいでお気の毒様。
「いるよ」
「お付き合いしてるの?」
「してないけど」
私の大事なストレッチ時間にも関わらず話しかけてくる母はこれから短大時代のお友達とお出かけとの事でだいぶ厚化粧。七十過ぎても人生これから感があって良いけどね。
「どんな方なの」
どんな方。そんな改まるような間柄ではないのだけれど。
私が気になっている同じ課の三浦君は六歳年下。仕事が出来て、振る舞いもとても落ち着いていて、何より見目が良い。背が高くて、筋肉質なのに細身のスーツが良く似合う。私含めた女に媚びてこないところが特に良い。
ただ、母のお眼鏡に適うかどうかは分からない。業界ではそれなりに名の通った会社とは言え、ただのサラリーマンだといえばそれまで。
父は私の結婚について何も言わない。仕事人間でいつも帰りが遅く、家の事には昔から無頓着。顔を合わせれば私の機嫌を取るような事ばかり言う。フサフサしていたロマンスグレーの髪は年々減っている。皺も増えた。会話は余りない。けれど父は私の理想の男性像。
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