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ラーメン
「上がり? 一緒に帰らない?」
後ろから声をかければ、三浦君は気のない素振りで振り返る。
「ハア。今から清水と飯に行くので」
「私も行きたぁい」
「えっ、田中さんも来ます?」
三浦君の陰にいた清水君がとても驚いた顔をする。何故?
「美味いんですけど、量多いんで女の人はどっすかねぇ」
どっすかねぇ? 量が多い? もう十時過ぎてるけど。そんな恐ろしい食べ物なの?
三人で行ったラーメン屋さんは古くはなくて今風の内装だったけれど、ラーメンはラーメン。色気皆無。
「大丈夫ですかぁ? 田中さん。無理しないで下さいねぇ」
実にどうでも良さそうな声で清水君が心配してくれる。
なるほどね。これは食べ切れない。
どうせなら三浦君と二人だけでバーのご飯を食べたかった。まあ誘っても来ないんだけど。上手くいけばそのままお持ち帰り出来るかも知れないのにさ。彼女なんか知るか。
三浦君は寮で私は実家だからホテルで? あっ、でも今日は親二人共温泉だった。あっ、でも部屋を片付けておくのを忘れた。……駄目だ。とにかくタイミングが良くない。別の日にしよう。今日はラーメンだし。三浦君も咳き込んでいる事だし。
最近の三浦君は具合が悪そう。年下男はこれだから世話し甲斐がある。しかし恋人でもなんでもない、ただの同僚だから見てるだけ。なんて歯痒いの。
清水君も背が高くて愛想が良くて有望株だし話し易いし嫌いじゃない。でも恋の相手には若過ぎる。若くても三浦君ぐらい、六歳ぐらいが限界だ。
ラーメン屋さんのカウンターでは清水君が真ん中。清水君は饒舌で、話題選びが上手い。さすが営業若手のホープの一人。三浦君は基本的に黙っていて、清水君の向こうでまた咳き込んでいる。水を渡して癒してあげたい。
「お疲れっしたぁ」
あっという間にお開き。全員別の方向へ帰る。
あれ? ラーメン屋さんで三浦君、何か言った? 清水君とばかり話してしまった。
何だそれぇ!
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