傘ちかい

3/5

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「あたしは、寂しいよ」  笑っている。だけど、それは楽しそうな僕の好きな姉ちゃんの笑顔ではなかったから、さっきの思いは消えていた。 「俺も寂しい」  本音を語り合うと、少しぎこちない笑顔で顔を合わせる。これから続ける言葉は僕だってわかっていた。 「ホントは姉ちゃんと一緒に居たいよ。好き、なんだから」  面と向かって話せなくてそっぽを向いたが、姉ちゃんからの視線ない気がする。 「だったら自転車通学なんしなけれ良いのに。天邪鬼だな。でも、そんなチビスケのこと、あたしも好きだよ」  二人の会話は囁くみたいに小さいけれど、雨の音に消されたりはしない。だってもう雨はやみ始めていたから。 「姉ちゃん。付き合って」 「うん。その言葉。待ってたよ」  勇気だけで僕は顔を姉ちゃんに向けると、姉ちゃんは僕を見て本当の笑顔になっている。その顔を見ると「待たせちゃったな」と呟いて二人で笑顔になる。 「寄り道してちょっと話してから帰ろうよ」  恋を叶えた二人は今という瞬間が尊くてまだこの手から離せなくそう残していた。僕たちは一つの傘で寄り添いながら歩いて道の横にある一本の木があるところから遠く街を眺めた。街の向こう側には海が見えていてその高い空にはもう夕日がきらめている。  付き合い始めの恋人。だけど昔から良く知っている人。そんな笑顔がとても愛しい。  だけど僕たちには別れも待っている。それは進学で気になっていた僕は「志望校は決まってるの?」と聞くと「まだ考え中だったんだけどなー」なんて話している姉ちゃんは僕のほうを見ている。 「んー、北高にしようかな?」  姉ちゃんの簡単に答えた言葉に「どうして?」とちょっと慌て聞き直してしまう。だって北高は平均程度の高校で、正直姉ちゃんは賢いからもっと上の学校を目指せる。 「だって、またチビスケと同じ学校に通いたいから」  気にしていたのは僕の学力のほうで、こちらはからっきしだ。正直言うと北高でも危ないくらい。  だけど、そう言われると嬉しくないはずがない。照れくさく笑って「じゃあ、俺が頑張らないと」って言うと「勉強教えるよ」なんて言葉が返る。二人でいられるのは嬉しいことだ。  それからもちょっとした話をしていると雨はあがっていて、空が茜から群青になってゆく。まだ道のりはあるのから「帰ろうか」というけど少しだけさみしさがある。 「雨がまだ降ってるね」  木の下から出た僕がどれだけ空を見上げても雨粒なんてない。だけど、姉ちゃんは「降ってる」と譲らないで、傘を広げると僕のことを呼んだ。  まだ近付くのは照れくさいところが僕だけじゃなくあったみたいで、傘を言い訳に僕たちは家までの道を歩いた。  こんな時間がいつまでも続けば良いと思っていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加