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「はい? 分かんない、じゃないでしょ。何でいつもそんな適当なんですか」
ここに来たのは一度きりだ。数ヶ月前の飲み会の帰りに彼に誘われて。
しかし、どうもすっきり思い出せない。
事故の衝撃か? 脳味噌がやられたか? 脳味噌どころか、だろ。そのレベルで済んでるか?
この部屋については細部まで思い出せたんだ。
だから彼が帰って来るまで確認するように見て回った。
ベッドの上に大きな黒い猫のぬいぐるみ。電子レンジと電気ケトルしかない小さなキッチン。前の住人が残したという、フローリングの煙草の焦げ跡。
本棚には猫、猫、猫。彼の趣味が猫グッズを集めることだということは有名だ。会社のデスクにもたくさんの猫の置物が置かれているから。
「もうここには来ないだろうと思ってたのに。何なんですか、あなた……」
肩を落とす彼を眺め見て、
「来る気はなかった」
「じゃあ、どうしてここにいるんですか、何があったんですか、そんなになってまで」
「どうして理由がないと会いに来ちゃいけないんだ」
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