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えんぴつ一本の意味(魔法使い)
世界を救う命を探し出せ。
それが次元魔法の天才と称され増長していた若い魔法使いが、王に投げやりに命じられたことだった。
この世界は幻獣たちの世界だ。
幻獣王は神にも等しい。
俺は、世界の隅で虫の如く僅かな年数を生きて死んでいく人として生まれながら、稀なる魔法の使い手として、長寿と、幻獣と対等な立場を手に入れた。
対等、それこそ幻だった。
幻獣たちにとって俺も卑小な動物と同じ。たまたま俺の魔法が珍しく、興味を引かれただけ。彼らは俺を珍獣のように可愛がり、そして嘲った。
それも、世界に穴があくまでのことだった。
穴は王都の外れに突如として生じ、触れたものを全て吸い込んだ。
穴の中は光が通らず、どこから見ても黒く塗りつぶされた丸い紙が置いてあるようだ。徐々に周囲を喰らって大きくなる化け物じみた紙。
それが次元を貫いて開いた穴であり、いずれ世界の全てが飲み込まれてしまうことがわかって、幻獣たちは混乱し、嘆きに嘆いた。
夢を食べて生きている彼らは、能力は高いが、逆境に弱い。嘆くだけでものの役に立たない。
そこで王が、珍獣でしかなかったはずの俺に命じたのだ。ふさわしい命を捧げれば穴は消えると、占いに出た。お前の魔法であまたの次元と世界からその命を探し出し、連れて来いと。
期待されていたわけではない。だからこそ俺は死に物狂いになった。見返してやろうと。
そして召喚されたのは、人の少女だった。
俺の分析では、彼女の世界とこの世界が億に一つの確率でぴたりと重なった時、均衡が崩れた。原因は知らねど、彼女の世界がこの世界より僅かに存在の重みを増した。
重い世界に軽い世界は吸い込まれる。それは自然の摂理。誰も逆らうことができない。
そんな絶望に対する唯一の奇跡、それが彼女という命だった。
彼女が幻獣の世界で生きていれば、二つの世界の重さが均衡する。二つの世界が二度と関わり合わない距離に離れるだろう百年後まで、ただ生きていてくれればいい。
幻獣たちは俺と彼女に感謝をし、人への態度を改めた。
お役目は果たした、そう思ったのに。
彼女を愛し、その悲しみを知って、俺は召喚を悔やんだ。
だが彼女を帰せば世界が二つ崩壊する。
帰せない。あれほど帰りたがっているのに。
えんぴつ程度の重さならば、数年後には返せるだろうか。だが……意味がない。
世界はじりじりと離れていった。
その間にえんぴつは彼女の言葉と成り、価値を得た。
手紙だけは、届ける。
俺は長命を代償に、魔法をかけた。
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