ラブレター

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いつもより早く乗ったバス。座れると思っていたがあてがはずれた。高校まで自転車で行けるけど、なぜか校則でチャリ通学は禁止されている。意味が分からない。 息苦しい車内でいつものように音楽を聴いていると、人一人挟んだところに髪の長い女の子がいた。真っ黒で真っ直ぐな髪がとても綺麗だ。目が大きく涼やかで顔の輪郭は卵みたいでとても可愛い。制服からすぐにR高の生徒だと分かった。 どこから乗ってきたんだろう。 車内の暖房のせいなのか人の熱気のせいなのか、頬がピンクに染まっている。 バスは学校近くのバス停に止まった。 彼女が先に降りた。 間違いないR高だ。 その日、ぼくは一日中、初めて見かけた彼女のことが気になってしかたがなかった。 長かった一日が終わり下校の時間がきた。やっと学校という牢獄から解放されるんだ。学校嫌いのぼくだから当然部活には入ってない。友達に誘われたこともあったけど気が進まずいつのまにか高一の二学期も終盤だ。 足早に校門を出てバス停に向かう。バス停に見覚えのある女学生が列んでいる。 あ、彼女だ。 とたんに心臓がドクンとした。 彼女も部活してないのかな。それともたまたま…… たまたまにちがいない。 そうじゃなかったらとっくに彼女に気づいていたはずだから。 あれこれ想像しながらなにげに彼女の後ろの方に列んだ。 少ししてバスが来た。同じバスに乗った。 何処まで乗るんだろう。 彼女は前の席に座った。ぼくはその右斜め後ろに腰掛ける。 あまりじろじろ見るわけにも行かず、横目で時々彼女をチラ見する。 もうじきぼくがいつも降りるバス停に近づいた。すると、彼女も同じバス停で降りた。 それから彼女は南にむかって歩き出す。 ぼくは横断歩道を渡りながら彼女の後ろ姿を目で追う。彼女の姿が小さくなって消えるまで。 その日から毎日彼女と会うようになった。朝も夕方も同じバス。 名前なんて言うんだろう。何年生なのかな。 話しかけたい。 話しかけたら引かれるかな。 気になって仕方が無い。 ある日の日曜日、いつもいくスーパーで私服の彼女を見かけた。 心臓が飛び出しそうになった。 同じバス停なんだから近くに住んでいるのだろう。 そう思うとますます彼女のことが知りたくなった。 11月になろうとする頃、ぼくは思い切って彼女に話しかけようと決意した。 でも勇気がでない。 話しかけて何を話す? 口下手なぼくに自信はなかった。 どうすればいい。 そうだラブレターを渡せば良い。 それから一週間何度も書いては消しの繰り返し、やっと一通のラブレターを書いた。 このラブレターをいつ渡すのか。一度も話したこともないのに。しかも他校の生徒で学年すら不明。そんなやつからいきなりラブレター渡されても迷惑するだろうなぁ。 ラブレターを書いたものの、いざ実行するとなると震えが止まらない。 でもこの気持ちを彼女に届けたい。 決行だ。 ぼくは勇気を振り絞った。 明日の帰りがけ、彼女に渡そう。 ラブレターをブレザーのポケットに忍ばせ、朝のバスに乗る。彼女もいる。いつもと同じだ。帰りに同じバスに乗って彼女がバスから降りたところで手紙を手渡す。これでいこう。 長い一日が終わった。 結局ラブレターは手渡せなかった。 あと少しの勇気があれば。 ぼくは冬休みが終わったらもう一度チャレンジしようと決心した。 冬休みが終わった。 彼女をバス停で見かけることはなかった。 時間を早めても遅らせても出会うことはなかった。 たぶん彼女は三年生だったのだろう。 受験頑張って。 彼女に渡せなかったラブレターは今もブレザーのポケットに忍ばせている。 もう一度会える日を祈って。                                  了
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