危機

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危機

「おは、拓海」 「おはよ」 いつも通りの日常がやっと戻った気がする。 昨日はなんて長い1日だったんだろう。 そんなこんなで俺が陽奈と話していると、何やら教室の扉のほうでクラスメイトが騒いでいる。 もしや……うん、まだ琥珀は来ていない。 ということは…。 その集団の中、中心からひょこっと苦笑いしながら顔を出したのは、紛れもなく琥珀だった。 あぁ、だろうね。 そうだと思ったよ、俺。 相変わらず人気だな。 そう俺が他人事だと思って陽奈との話を続けていると、琥珀が俺の方に向かってきた。 いやなに?! 俺目立ちたくねぇよ? そんな思いとは裏腹に、琥珀はどんどん近づいてくる。 そして俺の前で立ち止まって、よく通る声で 「おはようございます、拓海さん」 と言った。 その声が教室に響き、一瞬しんとした。 なんとも言えない空気を察して、あわあわしていた俺は気を取り直して 「おはよ、琥珀」 と言った。 俺がそう言った瞬間、琥珀は笑顔になったが、周りの反応は違った。 男子と女子全員(陽奈を除く)が一斉に俺の方を向いた。 そして、各々苛立ちや怒りを隠しきれない様子で次々に 「どーゆー関係なの?」 「何名前で呼ばれてるんだよ」 「昨日何があったの?」 「しかも『琥珀』って馴れ馴れしく下の名前  で呼びやがって」 「殺してやる」 「……呪う」 など殺気のこもった声が……。 助けてと陽奈の方を向いたけど、当の本人ははそっぽ向いている。 あぁもう! こんな時に限ってなんでそっち向いてるんだよ! きっと関わりたくないんだろうな。 こんなんだからね。 そのあと琥珀は俺の前から去り、自分の席に向かい出した。 それにつられてクラスメイトもついて行くけど、何人かは俺の方を向いたまま殺気のこもった目で睨んできた。 もうやめてください…。 でもこの一件で分かったことがある。 美人で人気のある琥珀のことを人前で『琥珀』と呼んではいけないことだ。 よし、もうこれまで通り普段は星宮って呼ぼう。 うん、そうしよう。 というかなんでそうしなかったんだろう。 まぁバカだからな。 予鈴がなってぞろぞろと席につき始めた。 いつの間にか陽奈はいなくなっていた。 今はそれでいい。 机の方に体を向けて机を見ると、見覚えのない白い紙がちょこんと置いてあった。 多分琥珀だな。 なんか毎回紙な気がするのは俺だけか? なんで紙なんだろう。 『放課後、図書館にきてください。』 琥珀の字だ。 何を話すんだろう。 聞きに行きたいけど、聞きに行こうとしても弾かれるだけだからな。 よしやめよう。 図書館ね。 りょうかい!
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