あゝ下剋上

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あゝ下剋上

 リビングにもお肉の焼ける香ばしい匂いが立ち込めてきた。 「ほら、こんなところに座ってると食いっぱぐれるわよ!」  スミレさんに紙皿と割り箸を渡された私たちは、追い立てられるようにしてベランダに出る。  広いウッドデッキの上を、気持ちのいい春の風が通り抜ける。  キャンピングチェアーに寝そべった小島くんが騒いでいるのが見えた。 「俺たち今日はお客様だからな! おい田代、肉持ってこい肉!」 「はい、先輩! 肉です!」  あれはステージでフリーラップをしてた子だ。確かまだ一年生だって宇佐見先生は言ってた。 (パソコン部って結構上下関係の厳しい体育会系だったのかな? なんかそういうのって宇佐見先生っぽくないな)  なんて思いながら見ていたら、小島くんが真っ赤になって叫びだした。 「グハァッ!! 田代、お前やりやがったな!?」 「肉にワサビって意外と合うんっすよ!」 「馬鹿野郎! 肉の裏にみっちり塗り込みやがって! 食い物を粗末にするんじゃねぇ!!」 「そうですよ、勿体ないから残しちゃダメですよ。ちゃんとそれ全部食べてくださいね!」 「てめぇ、よく見たら肉の厚みよりワサビの層のほうが厚いじゃねぇか!! 責任もってお前が食え!」 「はぁ? 小島先輩と間接キスとか死んでも嫌ですよ」    うん、下剋上だった。これなら宇佐見先生っぽい。
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