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つながる点と点
「僕、本当は長男だから、家を継がないといけないんですけど……」
橘くんはおずおずと話を切り出した。
「家を継ぐって、それ橘のやりたいことなの?」
湯浅くんが遠慮がちにそう尋ねている。これマンション経営をするために進学を諦めようとしてた頃、私もよく宇佐見先生から言われたなぁ。
「やりたいことっていうか、そもそもできないというか……」
歯切れの悪い橘くんの言葉に、湯浅くんと後藤くんは顔を見合わせている。
「できないっていうと、やりたくてもできないってこと?」
湯浅くんは丁寧に話を掘り下げていく。
「父は医者なんですけど、僕はそんなに出来が良くなくてですね。それに、こんな性格なんで僕が跡を継ぐのは難しいというか……」
彼の名前と医者という職業がピンとつながった。
「ひょっとして橘くんのお父さんって『たちばなこころクリニック』の院長さん?」
思わず尋ねると、橘くんはハッとしたように私と目を合わせた。
「あっ、はい。そうです……」
「そうなのね、うちの父がアルコール依存症で前に入院させてもらってたの」
「あっ、そうなんですね」
橘くんはモジモジしながら私から視線を外した。しまった、こんなカミングアウトされても困るよね?
「吉岡のとこって、父子家庭って言ってなかった? それでお父さんがアルコール依存症で入院って、なかなか人生ハードモードだったんだな!」
後藤くんと湯浅くんが目を丸くしている。
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