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向き不向き
「あ、うん。でも橘先生のところでしっかり治療してもらえて、もう社会復帰もできてるから」
いけない。私には当たり前のことだから気にしてなかったけど、うちが普通じゃないだけだった! 暗くなりかけた空気を私は慌てて取り繕う。
「すげぇじゃん! 橘のお父さんって名医なんだな!」
後藤くんの底抜けに明るい声が一瞬でよどんだ空気を一掃してくれる。こういう時、パワーのある陽のエネルギーはありがたい!
「でも、父からも『お前は医者には向いてない』って言われちゃって」
「うちの学校に来てるってことはそこまで学力的に問題があるとかじゃないんじゃないの? まだ一年なんだし、ここから勉強すれば医学部だって十分狙えると思うけどな?」
自らの血のにじむような努力の末に京都の大学へ進学を決めた後藤くんの言葉には真実味がある。
「いや、成績とかじゃなくて……医者になるにはメンタルが弱すぎるって言われてしまって」
「メンタル?」
「父からは『心が弱い人間が精神疾患のある患者さんの話を聞くと引っ張られて自分も心を壊すから、お前には無理だ』って言われているんです」
「ああ、無理ってそういう特性的な話なのか~」
後藤くんはようやく納得したと言わんばかりに大きく息を吐きだした。
「それはさ、しょうがないよ。俺も無理なもんは無理だったもん!」
後藤くんの言葉に今度は橘くんが首をかしげる。
「無理というと……?」
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