密室恋愛 下巻

揺らぐバイブル

　そう思った俺は、改めて吉岡の隣に立ってフロアマップをのぞき込む。
　フードコートの写真入り店舗案内に目が留まる。丼・ラーメン・たこ焼き・ステーキ・パスタのお店に加えてクレープやアイスの店まである。
なんだかお祭りの縁日が並んでいるみたいだ。

「フードコートに行ってみようか」
と提案すれば、吉岡はサッとマップで場所を確認して歩き出した。

　さっき駐車場からまっすぐジュエリーショップに向かったのと同じように、吉岡は迷うことなく一直線にフードコートを目指す。

　こうなると、俺のバイブル『絶対に失敗しない初めてのデート～彼女に突然フラれないための注意点100～』という本の信憑性が揺らぐ。
　ここまでの出来事を思い返してみると、この本の言っていることってなんだか全然吉岡に当てはまらないぞ。

　吉岡はウィンドウショッピングをしない。狙った獲物に一点集中、予定外の出費を好まない。身の丈に合わないものは欲しがらないし、どっちがいいか悩んでアドバイスを求めることもしない。
　こうしてみると、なんかちょっとだけ寂しい。俺、そんなに頼り甲斐がないと思われてるのかな？
　自虐思考に陥ってこっそりと凹む。

　土曜日のフードコートは子連れのファミリーでにぎわっていたが、二人掛けの席はちらほらと空いていた。
　俺たちはひとまず明るい窓際のカウンター席を確保した。