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お返し
「よかった、座れましたね! 先……じゃなくて真也さん、何が食べたいですか?」
少し意気消沈していた俺は、正直あまり空腹を感じていなかった。俺の気力の減退と反比例するように、さっきまであまりしゃべらなかった吉岡が生き生きして見える。
「いろいろありますねぇ、こういうところのステーキっておいしいのかな? あ、京風たこ焼きって普通のたこ焼きと何が違うんでしょうね?」
吉岡の声が水面を揺らすそよ風のようにサラサラと耳元を流れていく。
ぼんやりと店のラインナップを眺めていたら、吉岡がサッと立って紙コップに水を入れて持ってきてくれた。
「たくさんしゃべったから疲れちゃいましたかね? 少しここで休憩しましょうか」
俺がしょげてるのを感じ取ったのか。ほんとにこの子は察知能力が高いな。
「何でも好きなものを言ってください。お昼は私が出しますから!」
とうとう吉岡がそんなことまで言い出した。
「いや、いくら何でも吉岡におごってもらうだなんて……」
傷ついた俺の自尊心の傷口がさらに開く。そんな俺の耳に意外な言葉が返ってきた。
「エンゲージリングって、本来半返しらしいんですよ。27万の指輪を買ってもらったりしたら、13万5千円のお返し品を用意しなくちゃいけなかったんです。それはちょっと厳しいんですが、お昼代くらいなら私にも出せますんで!」
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